タザリア王国物語―影の王子

タザリア王国物語―影の王子 スズキヒサシ
 前々から欲しいなーと思っていたけど、書店でなかなか見つからず、やっとゲットしました。見つかって良かった。

お話

 大陸の中央に位置するタザリア王国、その地方都市の貧民窟でジグリットは育った。糧を得るために仲間の少年達と盗みを働きながらも、いつかは兵役につき身を立てようと考える少年だった。ある日、ジグリットの仲間の少年が戦争から帰還した騎士の鞍を盗もうとするも失敗し、それを庇おうとしたらジグリットも捕まってしまう。彼らはその場で処刑されてもおかしくはなかった。だが、一つの偶然がジグリットの命を救う。彼はタザリア王国の王子と瓜二つの要望を持っていた。そして騎士がジグリットを連れて帰り、王子の影武者として育てようと考えたことから、彼の運命は変わる。

魅力

 ライトノベルには珍しい硬い文章が、世界観を上手く演出している。読んでいてどうも、女性的な小説だと思うのだけど、名前は男。ペンネームがそうなだけな気がしないでもない。
 そもそもこれはライトノベルか? とも思うけど、ヒロイン(と思われる)のリネア姫の今後の扱い方しだいでジュブナイル寄りかライトノベル寄りで分かれそう。リネア姫がヤンデレとして処理されるか、違う役回りのキャラクターとして強い力をもつキャラクターになるか、そこが分岐点か? この物語の色々の元凶というのがリネア姫の嗜虐心から端を発するものなので、現在ジュブナイル分が強いと思う。
 以前、シノのレビューでライトノベルは基本的に人間を描こうとしていないと書いたけど、タザリア王国は書こうとしている。人間の美も醜も、葛藤も飛躍も、それは役割に留まらず全ての人間がもつものだ。それを正面向いて書こうとする姿勢は、本当に素晴らしいものだと思う。*1
 ただ一つ気になったのが、後半ジグリットが自分の醜さから逃避するような考えをしているのが気になる。自己肯定してキレイに纏めるよりも、罪から逃れられない切迫感を感じるようになった方が、話として筋が通るのではないだろうか。とは言え、展開の都合上、そこから逃れることはあり得ないと思うので、この先で語られることなのだろう。そこに信頼感を抱けるのはリネア姫の存在感のお陰だろうか。
 文句なしで大満足できる作品でした。

*1:そうでないものには、そうでないものの素晴らしさがある