去年のヒット

 新年を迎え、皆様いかがお過ごしでしょうか。僕はそれなりにぼちぼちです。さて、新しい年を過ごす前に色々と、去年読んだり見たりしたものの中から個人的にヒットしたものを。

少年 (中公文庫 A 4-6)

少年 (中公文庫 A 4-6)

少年 北杜夫
 去年のベストヒットでした。一昨年が漱石の『草枕』で一昨々年がカミュの『シーシュポスの神話』だったので、趣味の傾向として文学が好きなのかもしれませんね。マンガの方が好きなツモリなのですが。
 北杜夫の『少年』ですが、何が素晴らしいって文章の伝える映像の美しさでしょう。山登りが趣味の、思春期に入って間もない少年の話なのですが、瑞々しい感性の伝える世界の美しさは、僕の知らない自然のありようでした。読んでいるうちに、書かれている幻想の中で時間が過ぎていく、その体験は稀有なものであると思います。
シグルイ 9 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 9 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 南条範夫
 ローマだと理想的に美しい人間の姿は少年のものであるとされていたらしいですね。それと同種の人間の肉体美を描こうとしているように思えます。飛び散るはらわたも美しい。
 また肉体美と対をなすごとく、精神の美を武士道においていますね。「武士道とは死ぬことと見つけたり」は葉隠れでしたか。その死ぬことに道を見つける精神の美はいうまでもないと思いますが、同書において「武士道は死に狂いなり」とも言われています。それをマンガという媒体で表現できるのは素晴らしいことです。
 著者の書く漫画もシグルッテいますね。
マイガール 1 (BUNCH COMICS)

マイガール 1 (BUNCH COMICS)

マイガール 佐原ミズ
 星の声のマンガをアフタヌーンで連載してたような気がします。あれは面白くなかったけど、こちらは良いですね。「セツナサ」*1を強調した作風は、どうにも星の声にあわないところがありましたが、マイガールにおいては良い方向に昇華されています。
 過去を振り返りながら、父と子の二人で共に前に進んでいく。心の中に染み入ってきますね。どうにもマンガというのは、後ろ向きばかりでは面白くなりにくいようです。このマンガでは過去と共に生きていく人間が描かれています。
“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

文学少女シリーズ 野村美月
 この手の話だと、しっとりした方向が好みなのですが、十分に面白い。売れるためには派手さも必要ですしね。今時文学なんてやっても売れねーんだよ。大衆は豚だから。
 さて、文学作品をオマージュしたシリーズなのですが、これがまた面白い。落ちには痛快さがあり、実にエンターティメントしております。完結への意欲もはっきりと示したところも買いですね。最新刊は今日買ってきました。
 ところで「とおこ」という名前、音的に大好きなので遠子先輩に萌えております。ラノベはやっぱり萌えることが絶対必要条件ですね。古橋秀之高瀬彼方も大好きですが。
冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 古橋秀之
 淡々とした冒険譚とでも言いましょうか。一つのことをひたむきにとこなす人間は、シーシュポスもそうですが、実に美しいものです。白くも黒くもない、SFのようなファンタジーのような作品。売れそうなんですが、出版社を間違えている気がします。
 そろそろ黒く溜まったものが噴出す頃かなーと思っているので、いわゆる黒フルハツ作品にも期待しております。 まぁ期待もこめて。

総論

 去年発表された作品を見ると、パワーのある作品が少なかった印象です。皆疲れているんですかね。
 そんな中、パワーのあるマンガが多いという意味で今年のベストマンガ雑誌は『モーニング』だったでしょうか。ツタヤの話が最近出力が落ちているように思えるので、もうちょっと頑張って欲しいな。

*1:カタカナなのがポイント